SHARP PC-1260 の修理

SHARP PC-1260 の修理に関する記事です。




液晶交換

PC-1260/61/62 の LCD が黒くなってしまった際の交換用 LCD が頒布されています。本記事は PC-1260 を元に書かれていますが、PC-1261/62 も同様です。

LCD 交換 (+α) の際にあると便利なものは次の通りです。

用途 入手先
精密プラスドライバー #1 分解用 100 円ショップ
精密マイナスドライバー 液晶フレームのツメを起こすのに。可能なら砥石で先端を研いでください。
元々刃物だったものをツメを起こす用途で使うと欠けて危険です。
100 円ショップ
スパッジャー (Amazon) 液晶フレームのツメを起こすのに。樹脂製のものは基板に傷を付けにくい。 通販
ラジオペンチ 液晶フレームのツメを起こすのに 100 円ショップ
歯ブラシ 液晶フレームのツメを折り曲げるのに (お尻で押します)
無水エタノールで清掃する際にも
100 円ショップ、ドラッグストア
アセトン (ネイルリムーバー) 液晶フレームから液晶をはがすのに ホームセンター、100 円ショップ
ジップロック (的な袋) 液晶フレームから液晶をはがす時の漬け込み用 100 円ショップ
イソプロピルアルコール or 無水エタノール 清掃用 ドラッグストア、ホームセンター
綿棒 清掃用 100 円ショップ、ドラッグストア
ポリイミドテープ (Amazon) 液晶フレームのツメを起こす時の基板保護、短絡防止、ホコリ防止/除去用にも 通販
ビニールテープ 液晶フレーム用 100 円ショップ、ドラッグストア、ホームセンター
両面テープ 液晶フレーム用 100 円ショップ、ドラッグストア、ホームセンター
養生テープ 各種固定用 ホームセンター
接点復活スプレー (Amazon) 基板 (接点) の清掃 ホームセンター
タミヤ F グリス (Amazon) スライドスイッチ摩耗防止用 通販、ホビーショップ
チャック付きビニール袋 分解時のネジやステーの保管 100 円ショップ
デジタルノギス (Amazon) スペーサーを使う場合のの調整に。安価な奴で充分です。 通販、ホームセンター
ミシン油 脱脂されてしまった金属部品の保護用。 ホームセンター

スペーサー

PC-126x の液晶交換は若干難易度が高いので、精度を上げるためにスペーサーを用意してから作業する事をオススメします。画像は PC-1350 のものです、PC-126x では 113.0mm (2 本) だけを使います。

サイズ 数量 用途
113.0mm 1.5mm 0.7mm 2 波打ち防止。上下 1 本ずつ。

安価な FDM 3D プリンタで作る際には誤差があるので現物合わせで。スペーサーの両端は膨らんでいたりして誤差が大きいのでデザインナイフやカッターナイフで整形を。

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液晶交換

液晶交換手順は『PC-1245 LCD 交換マニュアル』をなぞっています。先にYoutube 動画を視聴する事をオススメします。

  1. 表側から養生テープを貼ります。この一手間がキーをブチ撒けるという大惨事を防ぎます。
  2. 裏蓋のネジを外します。
  3. 電池カバーを外して、電池を取り出します。
  4. ネジ 3 本を外して、メモリ基板を外します。基板同士を接続している導電ゴム (ゼブラコネクタ) がどちらかの基板に貼りついているので無くさないように注意してください。
  5. ネジを 1 本外してグレーのプラスチックシャーシを外します。手前から奥に起こすようにすると外れます。ここで圧電サウンダのリード線をハンダごてを使用して取り外します。外さずに作業する事もできますが、外して作業した方が圧倒的に楽です。この状態で圧電サウンダを外す場合には周囲をポリイミドテープで保護した方が無難です。
  6. 机に置いた状態で基板を外します。手前から奥に起こすようにすると外れます。養生テープを貼っていない場合、浮かせて作業するとキーボードのパーツが飛散します。

    キーボードのメンブレンシートは基板に貼りついている事が多いので、ケース側に戻しておきます。
  7. LCD の金属フレームの爪を起こします。全部で 8 箇所あります。100均の精密マイナスドライバーの先を研いだものを用意しておくと便利です (樹脂製スパッジャーでは起こせない事があります)。起こす爪の横辺りの基板を金属フレームごとギュッと握るとわずかながら隙間ができる事があります。
  8. 基板と LCD の金属フレームを分離します。金属フレームの爪はペンチで挟んで真っすぐに矯正しておきます。
  9. 金属フレーム表面から偏光板を取り外します。偏光板は切り欠きがあるのが左上です。この偏光板は外したらもう使用しないので、破損しても大丈夫です。偏光板を固定していた両面テープは IPA か無水エタノールでキレイに取り除いておきます。裏側からは導電ゴム (ゼブラコネクタ) を外します。ピンセットを使って端からゆっくりと剥がしてください。
  10. LCD と金属フレームは両面テープで接着されていますが、カッチカチになっていて外れないので、アセトン (ネイルリムーバー) に漬け込みます。食料品用のチャック付き袋だとアセトンは漏れませんが、念のためにタッパー等に入れておいた方がいいかもしれません。日向に置いておくと、2 時間くらいで外せるようになります。液晶面を完全に浸すのと、たまに液晶面を押してアセトンを浸透させるのが短時間で外すコツです。
  11. 金属フレーム内側の両面テープは粘着力が残っていますのでそのままでも大丈夫な事が多いですが、キレイに除去して新しい両面テープを貼った方が無難です。アセトンのせいで厚みが均一になっていない事があるからです。両面テープを貼り換える際は、厚めのものを使って下さい。
  12. 交換用 LCD を用意します。金属フレームの穴と反対方向に LCD のポッチが来ます。
  13. 交換用 LCD の保護シートを外し、金属フレームに載せます。画像では金属フレーム側にポリイミドテープの上に両面テープを貼り、交換用 LCD 側にポリイミドテープを貼っていますが、PC-1350 のように LCD 側にポリイミドテープと両面テープを貼った方が作業がやりやすいと思います。いずれにせよ、最終的にポリイミド⇔両面⇔ポリイミドの三層構造になります。こうすると位置合わせに失敗してもポリイミドテープの粘着力が弱いので貼り直しが可能になります。

  14. 取り付け位置は裏から見た場合で右寄せ (フレームの穴側に寄せる) です。上下はスペーサーを使わないのなら上か下にピッタリくっつけた方がいいかと思います。付属の導電ゴムは長いのでカットして使います。元々の導電ゴムを再利用する事もできます。導電ゴムを密着させるために IPA か無水エタノールで拭いてから載せます。LCD 側も拭いておきます。導電ゴムはできるだけ真っすぐ、内側に寄せておきます。
  15. 導電ゴムがズレないように 3D プリンタで スペーサー (画像のオレンジ色の部分) を作るのも有効です。爪を曲げた時に必要以上の圧力が基板に掛からないようにする効果も望めます。PC-126x はガラス基板ではないので、爪を曲げた所だけがたわむ事があります。

  16. LCD 金属フレームを基板に取り付けます。フレームを基板に充分に押し付けた状態でツメを根元から曲げるのがコツです。
  17. 分解の逆の手順で組み立てていきます。LCD 金属フレームは両面テープを剥がす時に脱脂してしまったので、ミシン油を薄く塗布しておきました。偏光板を取った関係で、表示マスク (金属のプレート) がずれやすいので注意してください。圧電サウンダーをハンダ付けするのも忘れずに。
  18. 交換完了です。背面にある ALL RESET を押して電源を ON にしてください。


トラブルシューティング

・スイッチが OFF なのに BUSY インジケーターが点灯したままになる

背面にある ALL RESET を押しても BUSY インジケーターが点灯したままの場合、金属フレームと基板 (のパターン) が接触している可能性、またはメモリ基板の接触不良が考えられます。メモリ基板下にあたる部分の金属フレームの爪を軽くしか曲げていないのではありませんか?もっと曲げるか、爪がメモリ基板に接触しないようにポリイミドテープで絶縁してください。

・MEM で確認した時の空き容量がおかしい

上記の爪の問題、あるいはメモリ基板の接触不良が考えられます。ゼブラコネクタにゴミが挟まっていたり、メイン基板 / メモリ基板の端子やゼブラコネクタを素手で触ったりしませんでしたか?IPA や無水エタノールで拭いてみてください。ゼブラコネクタがヘタり気味なら、3 本のネジを一旦外し、下側のネジから先に締めてみてください。上側のネジは最後まで締めたら少し戻すくらいに調整してみてください。

・横に線が入ったり、一部文字が表示されない

導電ゴムの接触不良です。横線は LCD の左右端 7mm くらいの上下、文字が表示されないのは左右端を除いた上下の接触不良です。基板や LCD のコンタクト部分、導電ゴムを IPA または無水エタノールで拭き、金属フレームの爪を根元から曲げてもっと導電ゴムを押し付けてください。ポリイミドテープが基板の LCD コンタクト部分に挟まっていないかも確認してください。

・文字がぼやけたり変な形になっている

導電ゴムが斜めにセットされています (波打っています)。金属フレームの爪を曲げる過程で導電ゴムが横に (金属フレームの上下方向に) スライドしてしまった可能性があります。基板や LCD のコンタクト部分、導電ゴムを IPA または無水エタノールで拭いて導電ゴムを密着させてみてください。

横にスライドして導電ゴムが波打つと、部分的に斜めにセットされた状態になり、不具合が生じます。

交換用 オリジナル
柔軟性 硬い 軟らかい
変形 しにくい しやすい
導電部 広い 狭い
歪み 弱い 強い
粘着力 なし 微妙にあり
劣化 なし あり

何度試してもダメな場合は、オリジナルの導電ゴムを再利用してみてください。間違ってアセトンに一緒に漬けてしまったものは使わない方がよいでしょう。

オリジナルの導電ゴムは導電部が狭いので若干歪みに強いです。逆に、歪みがなければ導電部が広い交換用の導電ゴムの方が優秀です。可能であれば、ズレないようにするためのスペーサーを使ってみてください。

・どれだけ調整しても (押さえても緩めても) 縦にも横にも線が入る。

LCD ユニットの金属フレームと LCD の間の空間が足りていない可能性があります。オリジナルは結構厚めの両面テープで固定されていました...つまりはあの厚みが必要です。薄い両面テープを使ったり、所々に貼ったり、そもそも両面テープを貼っていなかったりすると全体的にあるいは部分的に厚みが足りません。導電ゴムを載せた状態で金属フレームを横から見て観察してみてください。

厚みが足りない場合、爪をいくら曲げても (もちろん緩めても) 状況が好転する事はありません。当記事ではポリイミドテープでこの厚みを調整しています。また、爪の曲げ方について「軽く曲げた方がいい」「根元から曲げた方がいい」と人によって言っている事が異なるのはこれが原因だと思われます。



圧電サウンダー (スピーカー) が千切れちゃったのだけれど?

リード線が外れただけならハンダ付けすれば OK です。

グレーのプラスチックシャーシはネジ留めされていない状態で作業しましょう。ポリイミドテープで周囲を保護しておくとシャーシを溶かす事故を防げます。

電極 リード線 基板 圧電サウンダ
プラス 上側 内側
マイナス 下側 外側

外して無くしちゃった人は、直径 22mm までの圧電サウンダ (スピーカー) を探しましょう。Amazon とかでも入手可能ですが、秋月電子等で買った方が安いです (送料を考えなければ)。直径 20mm くらいの圧電サウンダだと入手性がいいと思います。

リード線が付いていない圧電サウンダはハンダ付けの難易度が高いので、短くてもリード線の付いているものを買った方がいいと思います (付け替えは難しくない)。



裏蓋のネジを無くしてしまったのだけれど?

M2 皿ネジ 8mm が適合しますが、ほんの少しだけ長いので、全体の長さを 7.50mm 程度まで削ったほうがいいと思います。このネジは普通のホームセンターでも見かけます (当方が購入したものは実測で 7.85mm でした)。

裏蓋用とシャーシ用で微妙に長さが異なるようです。

場所 ネジ 実測長 代替推奨 本数
裏蓋 M2 皿ネジ 7.80mm 7.50mm 2
プラスチックシャーシ 7.75mm 1
メモリ基板固定 3

長い M2 ネジをキレイに切断するには ENGINEER PA-01 を使うとよさそうです。

ネジが長すぎるとキツめに締めた時に表のアルミプレートが凸ってきます。



メモリ増強

SHARP PC-1260 のメモリは 4.4KB で PC-1261 は 10.4KB です。PC-1262 は PC-1261 の価格改定版なので、PC-1260 と PC-1261/62 との実質の違いはメモリ容量だけとなります。

概要

PC-1260 のメモリ増強の概要については Kyoro's Room Blog さんの記事にあります。

16KB 化も可能なのですが、PC-1261/62 でも扱えない機械語からしか使えない領域なため、本記事では 10KB 化の記事を参考にする事にしました。手順がいくつか増える程度で、それほど難しくはないと思われるので腕に覚えのある方は 16KB にチャレンジしてみるのもいいかもしれませんね。


メモリ購入

メモリは秋月電子から購入しました。購入時価格は 1 個 40 円でした。失敗を考えて最低でも 2 個購入したほうがいいかと思います。私はキリのいい数字になるように 5 個購入しました。

32KB の SRAM です。8KB 分を利用します。


メモリ交換

メモリ交換の実際の手順は次の通りです。

  1. 裏蓋のネジを外し、電池蓋を外して電池を抜きます。メモリ基板を固定しているネジを 3 本外します。
  2. メモリ基板が外れました。メモリ基板に導電ゴムがくっついてきた場合は剥がして本体側に戻しておいてください。このメモリ基板には幾つかバージョンがあるようですが、やる事は同じです。
  3. 交換対象なのは画像右上の 2KB SRAM です (TC5517 or HM6116)。SRAM の足にたっぷりと追いハンダをして剥がします。ヒートガンをお持ちの方はヒートガンを使ってもいいのですが、周囲のチップにダメージを与えないように注意してください。
    どのみちこのメモリを再利用する事はないと思いますので、ピンをニッパでカットしてから作業した方が簡単かもしれません。剥がした後はハンダ吸い取り線でパッドのハンダを可能な限り除去し、IPA や無水エタノールで焦げたフラックスを除去し、さらにフラックスを塗っておきます。
  4. 交換用 SRAM をハンダ付けします。
  5. 次の作業を行います: ジャンパーは抵抗の足とかでも構いません。私はジュンフロン線を使いました。J2 はちゃんとパターンカットできているかどうかテスターを当ててみる事をオススメします。
  6. メモリ基板を取り付ける前にメイン基板のジャンパ線をルート変更します。交換した SRAM の方が厚みがあるので、これを行わないと (SRAM の下にジャンパ線があると) メモリ基板が浮いてしまいます。ジャンパ線を切断しないよう、注意して移動させてください。
  7. メモリ基板を取り付ける際には下側のネジから締めるようにしてください。上のネジを先に締めると導電ゴムが接触不良を起こす事があります。導電ゴムやコンタクト部分を素手で触った覚えがあるのなら、IPA や無水エタノールで清掃しておきましょう。
  8. 電池を入れ、電池蓋をセットしたら、ALL RESET を押して下さい。それでも何かおかしいようであれば RUN モードの位置で ALL RESET を押して下さい。
  9. 電源を入れ (RUN モード)、MEMENTER とタイプしてください。9342 が表示されれば 10KB 化成功です。

簡単な BASIC プログラムやリザーブキーを登録してエラーにならなければ大丈夫です。疑り深い人は、&4080 に POKE で値を書き込んで、

POKE &4080, 123

PEEK で確認してみましょう。

PEEK &4080

これで多くの PC-1261/62 用プログラムを実行できるようになりますね。



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